歴史・古典コーナー(2回目)・・・・・・日本の近代の教育制度(明治~現代)と好きな万葉集2首、令和に因んだ万葉集

▲第2回、歴史・古典コーナー
東京高等師範学校令和に因んで、万葉集からとっておきの歌2首を紹介したいと思います。

東京高等師範学校

 大河ドラマ「いだてん」の金栗四三の入学した東京高等師範学校について大雑把について書きます。(日本の学制、明治以降改正変遷が激しいので誤りがあるかも知れませんが、とりあえず、金栗四三の出番の時に間に合わせました。)

 師範学校は教員養成の学校です。明治時代の初期、政府が力を入れたのが江戸時代各国と結んでいた不平等条約の改正、中央集権化(版籍奉還、廃藩置県、法整備、地租改正)、富国強兵、教育制度の確立でした。生徒、学生を教育するには学校の先生が必要になってきます。先生を養成する学校が師範学校です。

 ・東京高等師範学校の前身は日本で初めて小学校教員養成の学校(当時は尋常小学校と呼んでいた)として設立された官立(今の国立)の師範学校としてスタート→東京以外にも大阪、宮城、愛知、広島、長崎、新潟にも師範学校が作られたのに伴い東京師範学校と改称される。→時代の要請で次第に中等学校教員(後述の旧制中学、高等女学校)を養成する学校として昇格改組され高等師範学校、更には改称され東京高等師範校となる。
 更には家が貧しいため帝国大学、私立の専門学校(大正7年に大学令が発布され大正年間に多くの専門学校が大学に昇格している。)には行けない優秀な学生が、授業料免除のため集まってきた。→本来の教員養成の目的からだんだん離れて総合大学(教育学を研究する教育学部は残すも)へと変遷していった。

 師範学校→東京師範学校→高等師範学校→東京高等師範学校→東京文理科大学→東京教育大学→○○大学と変遷。※○○大学は下記の問題コーナーの問一

 師範学校(初めは全国8地区に設立。大阪師範学校、愛知師範学校、長崎師範学校・・・)→次第に各府県にも師範学校が設立される。→師範学校の呼称を変更して全国の学芸大学(例:京都学芸大学、福岡学芸大学・・・)→学芸大学の呼称を変更して各県の単科の教育大学(愛知教育大学、上越教育大学・・・・)と一部の単科の教育大学が国立大学に統合され教育学部(例:群馬大学教育学部、島根大学教育学部・・・・)

・現在の国立の単科の教育大学→北海道教育大学、宮城教育大学、上越教育大学、東京学芸大学、愛知教育大学、京都教育大学、大阪教育大学、兵庫教育大学、奈良教育大学、鳴門教育大学、福岡教育大学
※東京学芸大学だけが学芸を呼称している。下の問題の問2

日本教育制度の歴史(主に初等教育)
 明治5年(1872年)に学制が発布され国民皆学を目指すも、発布当初は3割ぐらいの就学率だった。理由、授業料が高い(学校を町村の負担で建設→授業料を高くする)。働き手である子どもを行かせたくない(特に農家)。
 しかし国の援助、国民の教育熱の高まりで次第に就学率が高くなっていき、明治の終わりにはほぼ100%になった。

 太字が義務教育期間

 入学時年齢
(修了時)
1900年(明治33年)
小学校令(第3次)
1907年(明治40年)
小学校令一部改正
 1941年(昭和16年)
国民学校令
 1947年(昭和22年)
学制改革(現在の学校)
 6歳(7歳)   尋常小学校1年  尋常小学校1年   国民学校初等科1年   小学校1年
 7歳(8歳)   尋常小学校2年  尋常小学校2年   国民学校初等科2年   小学校2年
 8歳(9歳)   尋常小学校3年  尋常小学校3年   国民学校初等科3年   小学校3年
 9歳(10歳)   尋常小学校4年  尋常小学校4年   国民学校初等科4年   小学校4年
 10歳(11歳)   高等小学校1年  尋常小学校5年   国民学校初等科5年   小学校5年
 11歳(12歳)   高等小学校2年  尋常小学校6年   国民学校初等科6年   小学校6年
 12歳(13歳)   高等小学校3年  高等小学校1年  国民学校高等科1年  中学校1年  
 13歳(14歳)   高等小学校4年  高等小学校2年  国民学校高等科2年  中学校2年
 14歳(15歳)      (国民学校特修科)  中学校3年

 
尋常とは、普通のとか当たり前のという意味です。
旧制中学校は尋常小学校6年、国民学校初等科6年(明治40年までは高等小学校2年修了)を卒業すると進学できる学校で5年制(4年制の時期もあった)、今の高等学校に相当する。 今の中学校とは違います。
女子生徒は、旧制中学校に相当する高等女学校(5年、4年の時期も)へ進学ができた。
旧制高校は、今の大学の教養部(教養課程1、2年。但し旧制高校は3年が多い)に相当する。今の高等学校とは違います。
旧制中学校、高等女学校、旧制高校も家が比較的裕福でしかも成績優秀者が進学した。旧制高校のナンバースクール(全国に8校)は超エリートしか進学できず、卒業すればほぼ帝国大学への進学が約束されていた。

略称   旧制高校  開設年月日  所在地  後身新制大学
一高  第一高等学校  1886年(明治19年)4月  東京都  東京大学
二高  第二高等学校  1887年(明治20年)4月  仙台市  東北大学
三高  第三高等学校  1886年(明治19年)4月  京都市  京都大学
四高  第四高等学校  1887年(明治20年)4月  金沢市  金沢大学
五高  第五高等学校   1887年(明治20年)5月  熊本市  熊本大学
六高  第六高等学校   1900年(明治33年)3月  岡山市  岡山大学
七高  第七高等学校造士館    1901年(明治34年)4月  鹿児島市  鹿児島大学
八高  第八高等学校   1908年(明治41年)3月  名古屋市  名古屋大学

これ以降、地名校、ネームスクールとなる。1919年(大正8年)4月、松本、新潟、山口、松山の旧制高等学校が設立される。
※川端康成の名作「伊豆の踊子」に一高生の主人公「私」が登場する。数え年で20歳。

◎ここで問題

問1、東京高等師範学校が母体となった現在の大学をどこかでご存知でしょうか?

問2、現在教員養成系の単科の教育大学で東京学芸大学だけがなぜ学芸と名乗っているのか?

問3、「いだてん」でシマ(杉咲花)が入学した東京女子高等師範学校を母体とする現在の大学はどこか?

問4、高等師範学校から東京高等師範学校に改称されたのはなぜか?

問5、次にあげる学校が母体になっている現在の大学は?
   ア、東京専門学校 イ、東京開成学校+東京医学校 ウ、日本法律学校  エ、哲学館  オ、曹洞宗専門学校
  カ、東京法学社 キ、女子英学塾 ク、東京商業学校  ケ、札幌農学校   コ、英吉利法律学校  
  サ、台湾協会学校  シ、興亜専門学校   ス、東京物理講習所   セ、東京職工学校  ソ、皇典講習所
  タ、済生学舎
答えは最後にあります。

(このコーナーは、文部科学省ウェブサイトの「学制百年史」、Wikipedia、中学校、高等校の教科書、参考書等を参考にしました。)

万葉集4500首の中で時々頭の中にふいと浮かんで口ずさんでしまう歌二首

・「家にてもたゆたふ命 波の上に浮きてし居れば 奥処(おくか)知らずも

 令和でおなじみの大宰府の帥・大伴旅人が天平二年冬十一月、大納言に任じられて京に陸路で上るとき、従者たちが海路で京に上るとき舟旅の辛さ、不安、悲しみを歌に詠んだ時の10首の中の一首。令和の梅の宴は同じ年の二月。

 民俗学者で歌人であった折口信夫(歌人名、釈超空)が口訳万葉集で傑作と評価した歌、万葉集の中で一首選ぶとしたらこの歌を選ぶとも評した歌。(昭和8年、「文学」の「万葉集のわが愛誦歌一首」アンケート)

 たゆたふ→不安定に揺れ動く  奥処(おくか)→奥まった場所、自分の行きつくところ、自分はどうなってしまうのだろう、計り知れない底なしの不安を表している
(訳)家にいてさえ心が揺れ動いて不安でしようがないのに、今は波に揺られる船旅にいるのでいっそう底知れぬ不安に襲われ、この先どうなってしまうのかわからない。

・「秋風の千江の浦廻(み)の木積(屑)みなす心は依りぬ後は知らねど」 詠み人知らず
  あきかぜのちえのうらみのこづみなすこころはよりぬのちはしらねど

 浦廻(み)→浜辺の湾曲したところ  木積(屑)みなす→木屑や藻屑が打ち寄せて堆積する
 心は依りぬ→私の恋心はあなたに引き寄せられてしまった。あなたのことが愛しくてしかたがない。 後は知らねど→先のことはどうなるかわからないけど

(訳)秋風の吹く千江の浜辺に木屑や藻屑が打ち寄せて積もるように 私の恋心は積もりに積もって、あなたが恋しくてならない。この先どうなるかはわかりませんけど(今はただただあなたが愛しい)

 澄んだ秋空の青と海の青、そして浜辺の波打ち際に寄せる白波が目の前に浮かんでくるようです。ザザッー、ザザッーと波の音が絶え間なく打ち寄せ、藻屑と恋心が積もる。

 i音が澄んで清らかな感じを醸しだしている。akikazeno chieno uramino kozuminasu  
昔携帯のアドレスにkozuminasu〇〇〇@ 使っていたことがありました。

 自分の恋心を浜辺に打ち寄せる木屑、藻屑になぞらえるなんて現代人には到底思いもつかない発想、更にはこの娘さん、自分を冷静に客観的に見ているのにもびっくりですごい。

参考文献:「折口信夫全集巻5・口訳万葉集・下」(中央公論社)、「萬葉百歌-山本健吉・池田弥三郎」(中公新書)、「文芸読本・萬葉集・山本健吉編」(河出書房新社)、「高市黒人・山部赤人-池田弥三郎」(日本詩人選3・筑摩書房)「万葉集恋歌」・清川妙(主婦の友社)、「万葉のふるさと・清原和義」(ポプラ社)、「文法全解・万葉集・大久保廣行」(旺文社)、「新明解・万葉集、古今集、新古今集」(三省堂)、「万葉集選釈・尾崎暢殃」(加藤中道館)、「万葉集注釋巻・澤瀉久孝」(中央公論社)、「萬葉集・森本治吉校訂」(日本出版配給株式会社)他

歴史・古典コーナーの答え

問1、筑波大学  問2、筑波大学の前身の東京教育大学が存在していたので、学芸を教育に変更できなかった。
問3、お茶ノ水女子大学  問4、広島高等師範学校ができたので(西日本の教育界のリーダー的存在として設立)
問5、 ア、早稲田大学  イ、東京大学  ウ、日本大学 エ、東洋大学  オ、駒澤大学  カ、法政大学  
キ、津田塾大学  ク、一橋大学   ケ、北海道大学   コ、中央大学 サ、拓殖大学  シ、亜細亜大学
ス、東京理科大学  セ、東京工業大学  ソ、国学院大学   タ、日本医科大学

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