嶋田:背景は大井川の川渡しの図。広重が俯瞰的に描いているのに対して、英泉は凝ることもなく普通の視点で、右端の桟橋から大井川を渡っている人々をもれなく描いている。大きな松が丹念に描かれている。ネット上では見にくいが、実物には松葉の様子まではっきりとわかる。松、山の緑、川の濃い青、英泉好みの茶が美しい。女は浴衣を抱え、口に手拭いをくわえ、右手は裾を引き上げ、左手には足駄を持って、台から下を覗き込んで降りようとしている。何のための行動か察することはできないが、ユニークな姿態を描いたものである。ややかがめた格好に飛び降り様とする女の強い意志が感じられる。また縞模様にも下への動きが感じられる。赤い裾の襞と白い足が効果的。台の下には何も描かず、見る者にずいぶんと高いと印象づける。

浮世絵目次  渓斎英泉4  home  

                   (C) Katumasa Ohbayashi