藤川:背景は大名の一行が旅籠屋に到着した慌ただしい様子を描いている。一行の名を記したらしい関札、先端が赤地の槍が見える。箱状の荷物がたくさん積まれている。提灯の脇には、赤い扇子を持った役人が出迎えている。銅がねの色彩が目を引く。旅籠屋、人々の顔、馬、仕切の雲までこの色にこだわっている。松、羽織の緑との対比も面白い。女房風の女が、しどけなげに寝そべって右肘で頬杖をつきながら読み物から一瞬目をそらし、ふと何か考えごとをしている。枕のように見えるのは、実は何かの箱に布か懐紙を被せた物。長煙管、煙草盆が置かれている。地味な色合いの着物が一層落ち着いた女に見せている。満たされた生活を送っているゆとりが感じられる。英泉にしては珍しく足の部分をカットして描いている。しかし、指には英泉らしいこだわりが出ている。

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                     (C) Katumasa Ohbayashi