昔の歌1-閑吟集1

▲今回から昔から及び最近勉強していて心に残っている古典の詩歌をいくつかずつ取り上げたいと思います。HPの「歴史・古典文学コーナー」にも転載したいと思います。
(1回目)
大学時代興味を持って読んだのが中世の庶民の小歌を集めた「閑吟集」(かんぎん集)。古本で買った朝日古典全書の「中世歌謡集」の中に収められていました。(写真は写真コーナーの7枚目)買った日付が1966(昭和41年年)、7、18、鉛筆でマルを打ってあった中からいくつか今回は挙げます。

 柳の陰でお待ちあれ 人が問はばなう楊枝木切るとおしゃれ
デートの待ち合わせ場所が、川のほとりの柳の木陰、「柳の木陰で待っててくださいね、こんなところで何をしているのかと誰かに聞かれたら楊枝にする柳の枝を切っているところですと言いなさい。」相手に向かって言っているのが男でも女でも、待っているのも女でも男でもいいようです。私は柳で待っているのは女性がいいかなと思っています。ここの楊枝は今の爪楊枝ではなく、枝の先を叩いて房状にした楊枝、今の歯ブラシ代わりか?
柳のそばで恋人を待つ歌は万葉集の東歌(あずまうた)にも歌われている。
「青柳の張らろ川門(かはと)に汝(な)を待つと清水(せみど)は汲(く)まず立処(たちど)平(な)らすも」(3546番)
青柳の芽吹く川端の水汲み場で、あなたを待ち続けて清水は汲まないで立っている処を行ったり来たりして地面を踏みならしています

 わが恋は水に燃えたつ蛍蛍 もの言はで笑止の蛍
自分の恋は、水の上で燃え立って飛んでいる蛍のよなものです。想いを告げられず、会うこともできない情けない哀れな蛍です。
水は見ずをかけている、笑止(せうし しょうし)・・・気の毒である。可哀そうである。蛍は昔から忍ぶ恋の象徴の虫であったようです。蛍-ほたる-の語源は火(ひ)をたらしながら飛ぶので→火 垂る→ ほたる
この歌の恋は、万葉仮名のように当て字をするとさしずめ「孤火」「孤悲」になりそうだ。万葉集には孤悲の用例が30首ほどあるそうで、一例が1921番の「・・・・恋わたるかも」に「孤悲渡鴨」の字を当ている。「孤火」はなさそうだ。
江戸時代の歌謡集に〈恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす〉(山家鳥虫歌)とある。

 散らであれかし桜ばな 散れかし口と花ごころ
散らないで欲しいなあ 桜の花は 散ってしまえばいいのになあ、口先だけの甘い言葉と浮気ごころはさ
恋に悩む女の男への嘆き

 なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ
何になるだろう まじめくさったってさ 一生は夢のようなもの ただ楽しく遊んで狂え
この歌は雑記の「24年5、6月」で取り上げた歌です。アニメのルパン三世の句としても知られている。くすむ・・・真面目である。重々く構えている。一期(いちご)・・・・一生。狂ふ・・・気違いじみている。物の怪に取りつかれたように振る舞う。

(「’25年夏」)より 

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