嶋田:大井川の川越しの図。かなり高い位置からの俯瞰図であるが、広重が想像して描いたものであろう。大井川の渡りは「越すに越されぬ大井川」と歌われたように、川幅もあり、急流で危険が伴ったので、旅人は川渡しの人足の助けを必要とした。先頭の肩車に乗る三人の武士、梯子状の輦台(れんだい)に乗った武士、岸に待つ大勢の大名の一行、その後を一般庶民が続く。これから川幅のある大井川を渡ろうとしている大勢の人々の隊列を俯瞰的に、小さく描くことによって、大井川が大河であり、この川の川越しが如何に困難であるかを見る者に訴えかける。大井川の一部だけを左上部に見ただけで恐ろしいほどの大きな川であると想像してしまう。手前の松が効果的に配されていて変化を持たせている。
(C) Katumasa Ohbayashi