岡部:「駿河なるうつの山辺のうつつにも 夢にも人に遭わぬなりけり」と伊勢物語にもよまれた宇津谷峠を越えると岡部宿。広重は宇津谷峠を描く。宇津谷峠の暗いイメージからか英泉は雨の岡部宿を描いている。旅人の菅笠、蓑、傘が旅籠、茶店に急ぐ。地味な色合いの衣装の田舎芸者が右手に三味線と撥(ばち)、左手に煙草と煙草入れを持って座敷に向かうところであろうか。着物の藍、紫、茶色が、バックの雨の暗さと重なり、雰囲気が出ている。模様にも寂しさが漂う。添えられた句は「降雨に明りのさすや春の宵」
(C) Katumasa Ohbayashi