原:まず目を引くのは、枠からはみ出した富士山。東海道を旅姿の女二人と供の男が足を休める。煙管で一服する女、富士を仰ぐ女。湿地・浮島が原ではつがいの鶴が仲良く餌をついばむ。のどかな景色。富士山の右斜面をほんのり朝焼けが赤く染める。北斎の赤富士と比べると広重らしい慎ましやかな朝焼けである。右に険しい山を並べ富士山のやわらかな美しいラインを際立たせる。雁らしき一群が富士をよぎる。道の草の緑が効果的に描かれている。枠からはみ出してまで描いた広重の並々ならぬ富士への憧れ、畏敬、庶民へ富士のすばらしい映像を伝えるサービス精神を感じる。万葉の昔、山部赤人が「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」と歌った時の感動を思い起こす。広重も赤人もそう度々、間近かに富士山を見たわけではないので、見たときの感動は相似る。今の日本人にも受け継がれている。

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