蒲原:広重の代表作。あまりにも有名な作品。ずいぶん前に、この浮世絵を初めて見たときなんとも不思議な心に染み入るような感動を覚えた。ほとんどモノトーンに近い夜の雪の景色に、人の姿だけに配色を施している。絶妙な構図。左端の切り立ったラインと左から右の方へなだらかに伸びるラインとの交わりがすばらしい。奥には雪の家並み、山々が静かにたたずむ。空からはやわらかく静かに雪が降りる。人物も巧みに描かれている。左側の傘をすぼめた人と右側二人・・・背中合わせの蓑をまとってうつむく人と雪を踏みしめて斜面を登ろうとしている人・・・との対比が一層の静寂を呼ぶ。  三好達治の「雪」をふと思い出す。
    太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
    次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
傘の開け具合、奥だけ雪を降らせるなど広重の芸術センスが光る。何度見ても感動させられる傑作。すべての部分が渾然一体となって人の心を打つ。

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                                         (C) Katumasa Ohbayashi