由井:左側の切りたった断崖絶壁がまず目を引く。旅人たちが富士山を望んでいるのはサッタ峠。かなりの傾斜で二人の旅人は滑り落ちそうだ。先頭の旅人は、手をかざして富士山を見る。赤人の「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」を思い出す。突然現れる富士山に驚き感動している。反対方向を毎日の生活の場である峠道を樵(きこり)が薪を担いで登る。切りたった絶壁、中央の岩の景色とは対照的に富士山と海を穏やかに描く。中央の岩の上の二本の松のクロスした異形が面白い。左上から右下へかけての対角線下に険しい断崖など、対角線上に穏やかな景色を配しているのも巧みである。

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                                       (C) Katumasa Ohbayashi