見附:天竜川の渡しを描く。風景写真を写し撮ったよう。穏やかな気分にさせられる一枚。手前には、客を運び終わった高瀬舟の船頭と長い竿を川底に差して持っている助手、中州には舟を待っている客と荷を載せた馬、川面には客を乗せた舟、遠くには靄に煙る木々がシルエットで二重の帯で描き出されている。天竜川は、中州で小天竜(手前)と大天竜(向こう側)に分かれている。渡し場のいつもの風景を、淡々と広重は優しいまなざしで描いている。構図的には、幾層にも分けていて三島の図に似ているように感じる。平凡な図のようだが、手前から二艘の高瀬舟、中景の中州の人々と馬、人を乗せた川舟、遠景の木々のシルエットと描くあたり広重のセンスが光る。目立たないが心に染みてくる作品。好きな一枚。

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                                       (C) Katumasa Ohbayashi