阪之下:(筆捨嶺)鈴鹿峠の東麓に宿場があった。左に描かれている山が、岩根山といい、岩石で覆われ、険しい山である。滝が二筋流れ落ちている。岩肌には松が所々に見られる。室町時代の狩野派の絵師がこの山を描こうとしたが、うまく描けずついには筆を捨てたので筆捨嶺(山)と呼ばれる。茶店ではこの景勝の山を旅人が思い思いに眺めている。筆で何か書き物をしている者もいれば、茶店から出て、手をかざして山を仰ぎ見る者、煙草を吹かしながらのんびりと見ている者とそれぞれだ。茶店に向かって、子供連れの農夫が荷物を運ぶ牛を引いて近づいてくる。牛引きの図は中国の山水画にもあったような気がする。後ろの青い山は、広重の創作か?薄い青で川底をうまくぼかしているので、ずいぶんと深い谷底のように感じる。こちら側の高台の黒い斜面も効果的。下の川は八十瀬川(やそせがわ)。

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                                        (C) Katumasa Ohbayashi