土山:(春之雨)この作品も良く知られているものの一枚。水かさを増した田村川に架かる橋を大名一行の先頭が渡るところを描いている。赤と薄緑の合羽の取り合わせが面白い。かなり強い雨らしく、うつむき加減に渡る。二本の槍も傾いている。強い雨脚を斜めにクロスさせ表現している。奥には田村神社が控えている。木々の幹の何本かと地面の一部分が、黄色くなっているのは春雷の光のためであろう。川に段差をつけ、太い流れの帯に分けて激流を表現している。青と白との使い分けも効果的。構図的には大名行列を先頭だけ見せることによって後の長い行列を想像させ、巧みだ。橋及び大名行列を中央に描いたなら平凡な作品になったであろう。絵師広重は下端に持ってきている。流石だと思わせる。ネットではよく見えないが、実物の雨脚は克明に描出されている。土山は、馬子歌「坂は照る照る 鈴鹿は曇る 間(あい)の土山雨が降る」で有名な地。

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                                        (C) Katumasa Ohbayashi