大磯:「虎ヶ雨」の図。大磯の宿場を抜けるとすぐ化粧坂(けわいざか)にかかる。曽我十郎の恋人・虎御前が化粧をしたという井戸が今も残っている。十郎があだ討ちの後、殺され、虎御前がこの地に戻り、供養したと伝えられる。虎御前の悲しみの涙と重ね「虎が雨」と瓢箪型の朱印に記されている。右の山は再三登場する大山。左には相模湾を望む。東海道を、蓑笠、合羽姿の旅人が、大磯の宿場を目前にする。モノクロ写真を見ているような色調,前かがみの旅人、雨、虎御前の悲恋物語のイメージが重なり、一層静かで寂しい感じにさせる。当然この雨では、真鶴、伊豆半島は見えない。うつむき加減の馬、松で遮られた馬、旅人、先を行く二人の旅人との微妙な距離、三つの雨脚の切れ間・・・広重のさりげないセンスが光る。 

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                                      (C) Katumasa Ohbayashi