舞坂:背景は広重の舞坂と同じく今切あたりを描く。今切は、明応の大地震で浜名湖と太平洋を仕切っていた陸地が切れて入り海となったものである。険しい山々の麓には舞坂の宿場の薄茶色の家々が横たわっている。漁をしている漁師が描かれている。二艘の大きな帆船が手前の船着き場に近づいて来る。どうも船の浮かび方が不自然ではある。女性と背景のしきりの紫雲が舞坂から変化する。添えられた狂歌もなくなる。若い娘が一生懸命に布きれで人形のような何かを作っている。娘の右側に千代紙で貼りあわされた針箱、膝の先には大きな和ばさみ、畳には材料の布、色紙を丹念に描いている。娘の衣服の模様が実に細かくきれいである。襦袢、帯、髪飾り、針箱の紅色が印象的。英泉好みの独特の足が白く覗く。

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                     (C) Katumasa Ohbayashi