庄野:(白雨)広重のあまりにも有名な傑作の一枚。空がかき曇り、庄野に激しいにわか雨が襲う。坂道での人々の様子がそれぞれ面白く描かれている。坂を駆け足で上っていくのは菅笠に筵(むしろ)で雨を防ぐ農夫。蹴上げた左足に急いでいることがわかる。後に続く駕籠かきは客が濡れないよう合羽を駕籠に被せている。客の左手は強く握られていて懸命にふり落とされまいとしているようだ。一方反対に坂を下りるのは、菅笠に蓑姿の村人。右足を蹴上げて猛然と下って行く。対照的に隣には風に飛ばされないように傘をすぼながら藍色の脚絆の旅人がゆっくりと坂を下りている。坂に垂直に当たる白と黒を織り交ぜた雨脚が幾筋にも微妙に角度を変えて、巧みに描かれている。雨脚とは反対方向に強風でなぎ倒される木々を三層に描き分けている。民家の脇の木々は実景、後ろの木々は、二層のシルエットで風雨の激しい臨場感を出す。シルエットは三島、見附でも使われている。坂、木々、雨の傾斜の組み合わせが実に巧い。坂でなく普通の道であったら平凡なものになっていただろう。右斜め半分と左斜め半分の濃淡、手前の木の枝の配置も巧みだ。広重の非凡さが伺える浮世絵。じっと見ていると、現場にいるような錯覚を覚える。外国人が浮世絵にあこがれ、夢中になるのもうなずける。構図的には蒲原と共通するところがある様に私は思っている。

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                                          (C) Katumasa Ohbayashi